せんと♨︎ガール

美大出身の「せんとガール」が、昔ながらの銭湯をめぐる。(主に東京) 

せんと♨︎ガール、銭湯の取材に行く。(中編)

埼玉の、夏の暑さに負けて、スライムになっておりました。

("せんとガール"こと、ちぐたは、実は埼玉県在住なのである。)

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遂に自宅へエアコンを導入し、スライムガールは、せんとガールへと、復活!いたしました。やっと、パソコンと正面から向き合う気持ちになれたのです・・・。

 

というわけで、前回は、T浴場へ心もとない様子で潜り込んだ、せんとガールのお話でしたが・・・。つづきます。

 

〜T浴場、脱衣所にて〜

のれんの後の自動ドアを通り抜けると、そこは脱衣所でした。

服を脱ぎ、荷物をしまうのに居心地の良さそうな、おさまりのいいロッカーを、探します。この、初めての銭湯でロッカーを選ぶ時って、ちょっとドキドキしますよね。私だけでしょうか。自分の納得の行く、安心できる「ホーム」を探すのです。

 

「おっと、良さそうだと思ったら鍵がない。。」

使えるロッカーと、現在使えないロッカーが混在している場合があります。その差が曖昧な場合は、ちょっと右往左往しちゃいます。
低めのロッカーを背にできる、いいあんばいのロッカーを見つけました。家と同じで、自分の体が隠れる、「塀」があると、安心しますね。っと、私は一軒家には住んだことはないのですが・・・。

 

洋服を脱ぎながらも、T浴場ご主人と、どうやって仲良くなろうか…と悩み、眉をしかめている。
まだ撮影をお願いする段階まで達していない、と肌で感じていた私は、あれこれ次の一手を考えていました。
自分でも分かってる。だいたいのことは、取り越し苦労なのです。

 

そして、風呂場へ入ってからは、すっかり頭をからっぽにして、お客さんの気持ちで楽しむせんと♨︎ガール。心配性なんだか、楽天家なんだか自分でも分からん。

 

風呂から上がり再び脱衣所に戻ってから、結局何も考えていなかったことに気づきます。

「まあいいや、とりあえず何か話しかけてみよう」

広いお風呂から出たあと、気が大きくなるのは何故なのでしょうか。

 

待ち合いに戻ると、ご主人は、テレビの旅番組を観て笑っていました。

(ご主人、テレビに夢中だ・・・、)難しい状況であるぞ。とりあえず、

「ありがとうございました!気持ちよかったです!」

と、御礼をいう。(さっきまでの気の迷いが嘘のように、威勢がいい)

テレビから目を離すご主人、

「あ、ああ。。いえいえ。」

ちょっとびっくりした顔をされてしまったである。

…まだだ!まだ足りない!(←仲良し度が)

 

フロント前にあるガラスの入れ物を開け、

「これください」

完全に勢いづいたせんとガール、瓶のフルーツ牛乳を差し出す。

「あ、ああ、はい。」

なんだか引かれ気味のような気もするけど、ご主人は笑顔を作ってくれた。

ご主人は、また、出したお金の真横におつりを置く。しかし、今度は迷わない。

 

「あ、あの、これ、写真に撮ってもいいですか!?」

「え?あ、ああ、別にかまわないよ。。」

フルーツ牛乳を?撮るの?という顔をして、私には、?マークがご主人の頭の上に浮かぶのが見えました。

もはや喋れれば何でも良い、という感じになってきている、せんと♨︎ガール。

慌てて写真に収める。パシャ。

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ここは、待ち合いの椅子に座って、一旦気持ちを落ち着けよう…。

と、私はフルーツ牛乳の瓶を開けながら、フロントの隣にあるベンチに座り、ふう、と一息つきました。

 

ご主人は、相変わらずテレビを見ながら笑っています。

私は、フルーツ牛乳を飲みながら、一緒にテレビの方に目を向けました。

他に誰もいない待ち合い室で、テレビの音と、ご主人の笑い声だけが聞こえていました。

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ご主人と、私だけで、同じ方向を向いて、しばらく座っていたのです。そして私は、美味しいフルーツ牛乳を飲んでいる。

その空間にぼーっとしながら座っていた私は、なんだか、自分がここの、長年の常連客になったような。いつも、自分がここにいるような、そんな穏やかな心持ちになってきました。

 

 

「あのう!」

空になった牛乳瓶を片手に、ご主人の目の前へ。

「え?」

「こちらのT浴場の、写真を撮らせて頂けないでしょうか!?」

名刺を渡し、ここがとても素敵なので、ブログに載せたいのです、と説明をします。

 

怪しまれていたかなと思いきや、ご主人は笑顔で「いいですよ」と潔く引き受けてくださいました。その場で銭湯の名前と電話番号を、紙に書いて、渡してくれました。

「ありがとうございます!それでは、当日は、よろしくお願いします!」

ほっとしたわたしは、ご主人がすぐ横に置いてくれていた自分自身の名刺を、またあやうく持ち帰りそうになりつつも、なんとか持ち直し、その日はT浴場を後にしたのです。

 

 

 ・・・つづく。(え?まだつづくの?)