せんと♨︎ガール

美大出身の「せんとガール」が、昔ながらの銭湯をめぐる。(主に東京) 

踊りの日2

踊りの日1はこちら

 

富士見湯が店を閉めていたしばらくの間に、男女別のトイレを作る改修工事が行われ、休み明けには綺麗なトイレが完成していた。

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女性の常連さんたちは、「素敵だわ〜」と言って、喜んでいた。
私も、前に発見した社長の「僕の夢」が、ひとつ実現されたんだ…と、ひそかに感動した。(過去記事「僕の夢」)

 

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踊りが始まった。日本舞踊を生で、これほど近くで見るのは初めてだった。白塗りをした人たちが小さな富士見湯の舞台にあがって、大音響の中で、扇子を持って、どすんと足で床を打ち鳴らす。音響は、カセットテープを入れたラジカセから鳴らし、それを音響係の人がマイクで拾っていた。時々、音が割れる。初めて見る立場だけれども、芸者さんの動きは若干かたいような気がした。けれども、お客さんたちは大方の人が食事を済ませて、踊りに夢中になっていた。

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「お嬢さん、割り箸 !割り箸ちょうだい」

お箸に千円札を挟んで、芸者さんの着物の隙間に挟む人もいた。改めて思うが、不思議な空間だ。

社長は二階をあちこち動き回って、私はタオルをいつ渡そうかということと、踊りの内容に気をとられて、仕事中であることを半分忘れていた。

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結局、昼間の踊りも終わり、社長は、近くの自宅へ一旦帰ってしまったらしい。私はもじもじして、未だにタオルを渡せていなかった。なぜか、社長に対しては、大好きなはずのお父さんになかなか素直になれない、思春期の娘のような(?)気持ちになる。他人だったらなんなく笑顔で渡せるのに、いつの間にか、家族のような近い存在になってしまったようだ。

 

仕事を終わらせて、荷物を持ってタイムカードを切りに行くと、フロントに社長がいた。

腕をぐいと伸ばして紙袋を「はい」と渡した。社長は目をまん丸くして、「これなにー?」と笑顔で聞いてきた。

「タオルだよ !使ってね !」と言って、わたしはそそくさと富士見湯を後にした。

 

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