コーラと帆立1
「富士見湯日記」より。
・・・これは、せんと♨︎ガールこと私ちぐた氏が
銭湯巡りを始めるきっかけになった、
「富士見湯」での出来事を日記に書き記したものである。
時間軸にそって最初から読む方は、コチラから。
12月27日 晴れ
初めての、銭湯でのアルバイト。どんなお客さんが来るのだろう。
きっと、おじいちゃんおばあちゃんばかりなのだろうな。
もともと年配の人と話すのが好きな私は、富士見湯でのアルバイトを楽しみにしながら、自転車を走らせていた。冬は日が傾くのが早い。富士見湯のピンクの外観が、オレンジ色になりかけていた。
同い年で美大生のチハルちゃんが、仕事を教えてくれることになった。
「フジノチグサといいます。よろしくおねがいします」
「どっちも、ちーちゃんだね」
二階のだだっ広い宴会場には、二人のちーちゃんしかいなかった。
部屋の四方に設置してある黒いスピーカーから、歌詞のないカラオケのメロディーが、ただただ流れていた。
「平日はいつも、大体こんな感じだから」
チハルちゃんは、丁寧に仕事内容を説明してくれた。
二階での仕事は、お客さんにメニューを聞き、料理を作って提供すること。
カラオケの機械を操作し、頼まれた曲を入れること。(大抵の常連さんは、歌のタイトルが書かれたカードを持っているので、そこに書いてある番号を打ち込めばいいらしい。)
あとは、料理の後片付け、食器洗い、足りない食材の補充などだ。
ときどき一階まで降りて行き、お客さんが銭湯で使った山積みの貸しタオルを外のコインランドリーへ運び、洗剤と一緒に洗濯機に入れたら、入れ替わりに乾燥機の中の乾いたタオルを持ち帰り、ロビーで畳む。という仕事もある。
「仕事は色々あるけど、まずは、マリちゃんのメニューを覚えましょう。」
「マリちゃん?」
マリちゃんとは、毎日ほぼ必ず二階へ来る、小さなおばあちゃんだ。頼むメニューは決まっているらしい。
「まずは、帆立の酒蒸しを作れるようになりましょう」
キッチン横の廊下にある、背の高い棚の端っこに、ホタテ貝の殻が何枚も収納されていた。
そこに冷凍の帆立を乗せ、めんつゆと日本酒を垂らして、刻みネギをたっぷりと乗せ、網で焼く。
「あ、ちょうどいいところにマリちゃんが来たよ」
「あれがマリちゃん…」
自動ドアから入ってきたマリちゃんが、いそいそと席についた。可愛らしい花柄の座布団は、マリちゃん専用らしい。キッチンの手前の席にも、一人、常連らしいご婦人が座った。
「コーラと帆立2」へつづく。
富士見湯ケンコー銭湯 Data
住所 | 東京都東大和市南街6-1-25 | ||
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TEL | 042-567-1126 | 営業時間 | 13:00~24:00 (土曜、日曜、祝日は12:00から営業) |
定休日 | 火曜日(祝日は営業、月末の火曜は営業) | ||
アクセス | ・鉄道 西武拝島線・東大和市駅徒歩8分
・バス 西武バス・第二小学校前停留所・徒歩1分 |
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