せんと♨︎ガール

美大出身の「せんとガール」が、昔ながらの銭湯をめぐる。(主に東京) 

社長2

 

富士見湯日記 *1 より。

 

前回の日記はこちら

 

2011年 5月21日 晴れ

 

仕事が夜遅くなり、社長に送ってもらう車の中だった。
社長に、「お前、ここの三代目になるか?」と言われる。
いつもの冗談だろう。社長はいつも真面目な顔をして冗談を言うので、真意が掴みにくい。社長は狼少年の話は知ってるのかな。

富士見湯は、もともと社長のお父さんが建てた普通の銭湯に、二十年前に改装工事をし、二階にカラオケ宴会場や整体室を作った。
社長は二代目なのだ。
銭湯を、このような娯楽施設にすることが、子どものころからの夢だったのだそうだ。

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社長が子どもの頃と言えば、昔、鳥をいじめていたそうで、その償いの気持ちから、最近外にいる雀などに餌をあげているらしい。という話を、今年卒業した先輩から教えてもらった。
社長や、富士見湯の裏話は、バイトの先輩から後輩へと、脈々と受け継がれていくのだ。

f:id:saint-girl:20141003185348j:plain歴代アルバイトの子たちが描いた絵。*2

 

鳥の餌やりの話を聞いたあと、食べられなくなった食材は捨てずにとっておくように、と社長から言われていたことを思い出す。


2011年 5月29日 雨

 

この日社長は、ラップに包まれたご飯をレンジで温めている。
レンジの中で、ご飯のかたまりが6つほど、団子になっている。

 

「社長、それどうするの」

軽く3人前はある。

「食うんだよ」


いつもの冗談かと思ったら、温まったご飯を、まとめて一つの大きな器に入れてしまった。

そして、どこからか天ぷらの盛り合わせを持ってきて、(これも5人前くらいある)ご飯の上に載せて、座敷に運んで行った。

二階にお客さんがいても、社長はいつも好きな場所でご飯を食べている。

 

好きな食べ物は何か聞いてみたことがある。そばと白米だそうだ。炭水化物が好物らしい。毎回、ものすごい量の食事だ。
見ているこっちが苦しいなあ。

 

社長が天ぷら丼を運んでいったお座敷から、
「しゃちょ~。なんだよそれ~」
と、お客さんの非難の声が聞こえてきた。

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*1:※「富士見湯日記」とは……せんと♨︎ガールの学生時代のアルバイト先、富士見湯ケンコー銭湯」での出来事を日記に綴ったものなのです。(銭湯の名前をクリックすると、地図が出ます。)

*2:アルバイトは大半が美大生で、富士見湯二階で使われるメモ用紙の裏に、お客さんの似顔絵をこっそり描いていることが多い。